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相続した有価証券の調べ方 相続はどこから手をつけるかそ6 二刀流ブログ第25回 

相続した有価証券の調べ方


■質問 二刀流ブログ第24回 相続した預貯金の調べ方からの続きです

私は横浜市に居住するサラリーマンです。

今年10月に東京都渋谷区に居住する父が亡くなりました。

父は生前、付き合いのある銀行担当者のすすめで株式や投資信託の投資をやっていたようです。

ただ、相続開始時点にどこの金融機関にどのような有価証券を持っていたのかはわかりません。

具体的にはどのように調べればよいのでしょうか?

相続税申告でいう有価証券


有価証券の定義は、法律や実務上さまざまありますが、相続税申告では財産評価基本通達で評価方法を列挙しているものと概ね一致していると筆者は考えています。

財産評価基本通達で評価方法を定めている有価証券は、以下のとおりです。

1.株式

(1)上場株式

(2)気配相場等のある株式

(3)取引相場のない株式

2.出資

3.公社債等

 

上場株式


金融商品取引所に上場されている株式をいいます。

金融商品取引所は、東京証券取引所、名古屋証券取引所、札幌証券取引所、福岡証券取引所、大阪取引所、東京金融取引所があります。

相続税実務で多く出てくるものの一つです。

 

気配相場等のある株式


次の3つを指しています。

1.登録銘柄:日本証券協会の内規によって登録銘柄として登録されている株式

2.店頭管理銘柄:同協会の内規によって店頭登録銘柄として指定されている株式

3.公開途上にある株式:

(1)金融商品取引所による株式の上場承認日から上場日の前日までのその株式(上記1.を除きます)

(2)日本証券業協会による登録銘柄明示日から登録の日の前日までのその株式(上記2.を除きます)

相続税実務ではあまり出てきません。

 

取引相場のない株式


上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式をいいます。

多くの中小企業の株式がこれにあてはまります。

被相続人がオーナー会社の社長の場合は必ずといっていいほど出てくるものになりますが、そうでなければ、あまり出てきません。

 

株式等に関する権利を忘れれずに!


株式は元本であり、相続開始の時期によっては次のような権利が発生します。

遺産分割協議書に記載がなくても、これらを計上しないと相続税申告では漏れなく相続財産を把握したことになりませんでご注意ください。

株式の割当てを受ける権利


 会社が新株を有償で発行することを決定した場合、株式割当ての基準日の翌日から株式割当ての日までの間に相続が発生したときは、被相続人は株式の割当てを受ける権利を持っていることになりますので、相続財産を構成します。

株主となる権利


上記の場合において、株式割当ての日の翌日から新株払込期日までの間に相続が決定したときは、被相続人は株主となる権利を持っていることになりますので、相続財産を構成します。

 

上記の株式の割当てを受ける権利と兄弟のような権利といえるでしょう。

 

株式無償交付期待権


 会社が新株を無償交付することを決定した場合、株式の無償交付の基準日の翌日から無償交付の効力発生日までの間に相続が発生したときは、被相続人は株式の無償交付期待権を持っていることになりますので、相続財産を構成します。

配当期待権


 配当金交付の基準日の翌日から配当金交付に関する株主総会の決議日までの間に相続が発生した場合、被相続人は配当金を受け取る権利を持っていますので、相続財産を構成します。

未収配当金

配当金交付に関する株主総会の決議日の翌日から配当金受領日までの間に相続が発生した場合、被相続人は配当金を受け取る権利を持っていますので、相続財産を構成します。

 

上記配当期待権と兄弟のような権利といえるでしょう。

ストックオプション


会社が役員、従業員等に対し、自社の株式をあらかじめ定められた価額(権利行使価額といいます)で将来の一定期間にこれを購入することができる権利を与えていることがあります。

 

被相続人がこのような権利を有している場合は、相続財産を構成します。

上場新株予約権


会社が株主に新株予約権を無償で割り当てていることがあります。この新株予約権のうち金融商品取引所に上場されているもの及び上場廃止後権利行使可能期間内にあるものを上場新株予約権といい、相続財産を構成します。

出資


財産評価基本通達では持分会社及び医療法人の出資を出資としています。

これと似たものに信用金庫、農業協同組合などの出資金があります。

こちらも相続税実務上は相続財産を構成しますので注意してください。

持分会社の出資


持分会社は、合名会社、合資会社、合同会社の総称です。

最近よく目にするのは合同会社です。

相続税実務上は、被相続人が合同会社の出資者であるケースで、相続財産を構成します。

医療法人の出資


医療法人は以下の3つの種類に分けられ、相続税において相続財産を構成するのは、社団たる医療法人で持分の定めがあるものの出資です。

1.財団たる医療法人

財団法人で、その財団自体に法人格が認められていますので、出資持分という概念はありません。

2.社団たる医療法人で持分の定めのないもの

民法の社団法人に類似しているもので、各社員はその出資について何らの持分権を持ちませんので、出資持分という概念はありません。

3.社団たる医療法人

会社等と同じく、各社員は出資に対する持分を持っており、その持分は通常自由に譲渡等ができますので、相続財産を構成します。

 

なお、日本における医療法人総数は58,902で、そのうち36,393が社団たる医療法人で、全体の60%以上が社団たる医療法人となります。

(出典)厚生労働省 令和6年3月31日現在種離別医療法人数の年次推移

 

公社債等


財産評価基本通達では以下のとおり、文字通りの公社債とその他の受益証券をあわせて「公社債等」としています。

1.公社債

2.貸付信託受益証券

3.証券投資信託の受益証券

4.上場不動産投資信託証券

公社債等


公社債はさらに以下に分けられます。

(1)利付公社債:

定期的に利子が支払われる債権で、利払いは年間の定められた日に行われます。

相続税実務で目にすることはあまりありません。

(2)割引発行の公社債:

利子相当額を割り引いた価額で発行され、券面額で償還されるもので、割引債とも呼ばれています。

相続税実務で目にすることはあまりありません。

(3)個人向け国債:

 個人だけが保有できる国債で、発行から一定期間を過ぎると、いつでも中途換金できることが法令で定められており、その中途換金見込額が把握できます。

個人向け国債は郵便局、証券会社、銀行などの金融機関に国債専用口座を開設してそこに預けられています。

相続税実務でも比較的よく目にするものになります。

(4)転換社債型新株予約権付社債(転換社債)

一定の条件でその転換社債の発行会社の株式に自由に転換できる権利が付与されている社債をいいます。

筆者が税理士試験を受験していたころは簿記論の試験や答練(模擬試験)でさんざん出題されて泣かされた経験はよく覚えているのですが、相続税実務で目にすることは滅多にないと思います。

(5)元利均等償還が行われる公社債

元本と利息が毎年均等額で償還される公社債で、遺族国庫証券、引揚者国庫債券がこれに該当しますが、相続税実務で目にすることは滅多にありません。

(6)貸付信託受益証券

貸付信託法の規定に基づく信託で、信託財産の運用益を受け取ることができる権利を表示したものです。

今では新規取り扱いが終了し、全ての契約が満期償還されていますので、よっぽどのことがない限り相続税実務で目にすることはないと思います。

筆者も被相続人の昔の預金口座で目にする程度です。

(7)証券投資信託の受益証券

証券投資信託とは、多数の投資家から集めた資金を一つの箱(ここではファンドといいます)にまとめ、投資信託会社が証券などで運用し、その成果を投資家に分配する金融商品で、その権利を表示した有価証券のことを投資信託の受益証券といいます。

日々決算型、上場投資信託、その他のものに分けられていますが、相続税実務で目にするのはほとんどその他のものではないかと筆者は考えています。

(8)上場不動産投資信託証券

不動産投資信託とは多数の投資家から集めた資金を一つファンドとして実物不動産等に投資・運用し、賃料(インカム)、売却益(キャピタルゲイン)を分配する金融商品で上場されています。「J-REIT」と呼ばれ、その権利を表示した有価証券のことを上場不動産信託証券といいます。

不動産鑑定士としての立場から観ると、とても興味深い金融商品なのですが、脱線するので、またの機会に。

相続税実務で多く目にするもの


以上のとおり、有価証券の種類はたくさんあり、目がまわってしまいますが、相続税税実務で多く目にするものは以下の5つです。

1.上場株式

2.個人向け国債

3.証券投資信託の受益証券(以下、「投資信託」といいます。)

4.上場不動産投信託証券(以下。「J-REIT」といいます。)

5.取引相場のない株式

上場株式、個人向け国債、証券投資信託、J-REITの調べ方


上場株式の詳細は、被相続人がその運用を任せている証券会社などから残高証明書を取得して調べるのがオーソドックスです。

取得方法は、銀行などに預貯金の残高証明書を取得する方法と概ね同一です。

問題は被相続人が運用を任せていた証券会社の手掛かりをどのように得るかです。

証券会社を知る手掛かりその1:運用報告書


証券会社を知る手掛かりの一つは、証券会社から年4回(3か月に1度)送られてくる運用報告書です。

証券会社に上場株式などの運用を任せている場合、3月末現在、6月末現在、9月末現在、12月末現在の運用報告書が投資家に送られてきます。

そこに報告時点の残高、運用実績等が記載されており、被相続人が上場株式などを有していたことを示す有力な手掛かりとなります。

証券会社を知る手掛かりその2:特定口座年間取引報告書

証券会社を知る手掛かりの二つ目は、証券会社から送られてくる特定口座年間取引報告書です。

これは被相続人が証券会社で特定口座(源泉徴収有)を開設している場合、毎年はじめくらいに証券会社から送られてきますので、これも有力な手掛かりとなります。

証券会社がわからない場合


運用報告書や特定口座年間取引報告書などがなく、運用している証券会社が不明な場合、どうしたらよいでしょうか?

そのような場合でも株式の幹事会社(信託銀行)から送られてくる配当金計算書、預金通帳の配当金や分配金の受領事績から被相続人が上場株式などを所有していたこと(所有していた可能性)を伺い知ることができる場合があります。

この場合、証券保管振替機構に開示請求すると、該当の口座管理機関の名称等を開示してくれますので、これに基づき残高証明書の取得へと進むことができます。

持ち株会の株式の場合


被相続人が従業員持ち株会に加入している場合もその株式を有していることになります。

この場合、勤務していた会社の持ち株会に詳細を確認します。

多くの場合、被相続人の死亡の連絡を受けると持ち株会から相続手続きの案内がありますので、その案内の内容で株式の詳細を把握することになります。

取引相場のない株式の調べ方


取引相場のない株式の場合で被相続人がその会社の代表者であるときや発行済株式又は出資の大部分を有しているときは、法人税の申告書等がありますので、株式又は出資を有していることは容易に確認できると思います。

役員でもなく所有している株式又は出資の割合が非常に小さい場合は、株式又は出資を有している事実の確認は非常に難しいかもしれません。

そのようなときでも、過去の預金通帳における配当金の受領事績や被相続人が保管しているその会社の決算報告書などで手掛かりを得られれる可能性があります(※)。

 

※ただし、実際の評価に必要となる法人税申告書や決算報告書などについては、会社の協力が得られず、財産評価基本通達に厳密に則った評価ができないことも結構あります。

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