法定相続情報の作成
■質問 二刀流ブログ第20回 戸籍証明書の取得からの続きです
私は横浜市に居住するサラリーマンです。
今年10月に東京都渋谷区に居住する父が亡くなりました。
最寄りの区役所で父の生まれてから亡くなるまでの戸籍証明書を取得しました。
インターネットで調べると法定相続情報を取得した方が便利だと書いてありますが、取得しなくても自宅の相続登記や預貯金の解約手続きはできるようです。
取得しなければならないのでしょうか?
法定相続情報とは
法定相続情報とは、正式には、「法定相続情報一覧図」といい、被相続人の法定相続人に関する情報を一覧にした図に法務局の登記官の認証文(お墨付き)が付いた書類です。
実際には法務局でこの書類の写し(「法定相続情報一覧図の写し」)を発行してもらい、この写しを相続手続きに使います。
なお、本稿では法定相続情報一覧図の写しを「法定相続情報」と簡略化して表現しています。
記載例は下記のとおりで、被相続人と法定相続人がツリー状にわかりやすく表現されています。
法定相続情報の記載例
法定相続情報の使い方
法定相続情報は、不動産の相続登記をする法務局、預金の解約をする金融機関、相続税の申告をする税務署などにおいて、戸籍証明書のかわりに被相続人の相続人を確定する書類として扱ってもらえます。
必ずしも取得する必要はありませんが、取得した方が、相続人の確定がしやくすくなります。
また、自宅の相続登記や預貯金の解約手続きなどもスピーディーに進めることができます。
取得から利用までの具体的な流れは以下のとおりです。
1.必要書類の収集
2.法定相続情報一覧図の作成
3.申出書の記入、法務局へ提出
4.法務局から法定相続情報が届く
5.法定相続人が確定する
6.不動産の相続登記の添付書類として使う※
7.預貯金や上場株式等の残高証明書発行・解約の申請時の添付書類として使う
8.相続税申告の添付書類として使う
など
※法定相続情報番号の提供による相続等申請手続きにおける相続があったことを証する書面の添付省略について
従来は、不動産の相続登記をする場合、法定相続情報を登記申請書に添付する必要がありましたが、令和6年4月1日以降、不動産登記の添付情報欄に「登記原因証明情報(法定相続情報番号(〇〇〇〇-〇〇-〇〇〇〇〇)」と記載することで、法定相続情報の添付を省略できるようになっています。
法定相続情報がない場合の落とし穴
戸籍証明書がもれなくそろっていれば、相続人の確定はできますし、それを法務局、金融機関、税務署などに提示することにより相続手続きや相続税の申告をすることはできます。
しかし、以下の点でデメリットがあります。
落とし穴1 戸籍情報は読みづらい
戸籍証明書は、近年作成されたものであれば、デジタル媒体を印刷した書類なので、読みやすいのですが、被相続人などの出生に向けて遡るにつれて手書きの原本を印刷したものとなります。
手書きしている人は、その時代、時代の市町村役場の役人ですので、きれいで読みやすいものもあれば、達筆すぎて読みづらいものがでてきます。また、毛筆のため、字がつぶれて読めないものも多々あります。
法定相続情報を作成する場合もそうでない場合も誰が法定相続人になるのか相続人が判断しなければならず、上記の場合、作成元の市町村役場に確認※しながら進めて行かなければならざるを得ません。
法定相続情報を作成する場合は、登記官のチェックが入り、誤りがあればやり直しを求めれますので、言い方はよくないですが、「自分の読み方は正しかったのか」を確認する手段としても使えるということです。
※筆者も経験しましたが、確認しても役所でも「〇〇〇だと思う」など確定的な答えがかえってこないことが結構あります。
落とし穴2 戸籍証明書は量が多い
長寿社会となって久しい我が国では、戸籍情報1部だけで相続人の確定がでいることは稀です。
筆者の経験ですと、片手(かたて:5部)以上は取得しなければ被相続人の出生時の戸籍情報にはたどり着けないという印象です。
現在は戸籍証明書の広域交付により最寄りの市町村役場で全てを取得できるようになり格段に便利になりましたが、不動産登記、預貯金等の残高証明書の取得・解約、相続税の申告など※のたびにそれぞれの役所などに戸籍証明書一式を提出しなければなりません。
落とし穴3 いちいちチェックを受ける必要がある
戸籍証明書は、法務局、金融機関、税務署などに提出すれば、「ハイ、終わり」」というわけではなく、それぞれの役所などでいちいちというか一字、一字チェックされます。一つの金融機関でOKがでても違う金融機関でも「一から」チェックされるのです。
その度に窓口で長時間が待たせれる、何日かおいてから来てくれ、なんてことになり、遅々として手続きが進まず、気が付いたら、相続税の申告期限が間近に迫っているということがあります※。
※筆者の経験
※筆者は信託会社で遺産整理業務を担当していたときのやや古い話(法定相続情報制度ができる前)ですが、
預貯金等の残高証明書・解約手続きのためにA銀行F支店の開店時間の9時ちょうどに窓口で行く⇒30分順番を待つ⇒窓口で申請書を提出⇒戸籍のチェックに2時間待つ⇒B銀行H支店の窓口に行く⇒45分順番を待つ⇒窓口で申請書を提出⇒戸籍のチェックに2時間待つ⇒もう午後4時で次の金融機関には行けない。
上記を避けるために郵送でやってみる。
A銀行F支店に電話連絡⇒担当者不在折り返し、折り返しに半日かかる⇒相続手続き書類を送付するので必要事項を記入、戸籍証明書などを添付してA銀行の相続センターに郵送⇒3週間後残高証明書が届き、解約。ただし、解約の具体的な手続きは各支店窓口で言われ結局窓口に出向く。
⇒以下この流れの繰り返しで気が付いたら相続税申告期限が3週間後。
血気盛んだった筆者は、何回かなんでこんなに時間がかかるんだと銀行の窓口に嚙みついたことがありますが、「戸籍証明書のチェックに時間がかかる」がお決まりの回答でした。
窓口で手続きするのがよいか、郵送するのがよいのかは一概にはいえませんが、筆者の経験や最近の郵便事情を考えると窓口で手続きする方が早い気がします。
ただし、ゆうちょ銀行のように一定の手続きがマストになっている金融機関もありますので、手続きを始める前に各金融機関などに確認する必要があります。
先日、相続税申告のお客様の預貯金解約をサポートした時は、法定相続情報を当事務所で作成したものを各窓口に持参しました。
そのときある金融機関の担当者から「先生の方で法定相続情報を準備してくれているので大変助かります」とのことで、30分くらいで手続きが済みました。
法定相続情報のメリット
以上から、法定相続情報のメリットは以下にまとめられます。
1.戸籍の読み間違えをふ防ぐことができる!
2.各相続手続き、相続税申告に必要な情報が1枚におさまる!
3.各相続手続きが早く終わる!
法定相続情報の取得のしかた
法定相続情報は、相続人が相続関係を一覧にした図(法定相続情報一覧図)を作成し、これと戸籍証明書などの束を法務局に提出することからはじまります。
法定相続情報を取得できる人
提出できる人は以下のとおりです。
1.相続人(又はその相続人)
2.上記1.の者の代理人
(1)税理士
(2)司法書士
(3)弁護士
(4)司法書士
など
相続人自身で手続きできますが、手間がかかるという方は上記の代理人に依頼するのありだと思います(有料)。
多く見られるのは、
・戸籍証明書の取得、法定相続情報の作成、不動産登記をセットで司法書士に依頼する
・戸籍証明書の取得、法定相続情報の作成、相続税申告をセットで税理士に依頼する
などです。
法定相続情報一覧図などの提出先
以下の場所を管轄する法務局のいずれかです。
1.被相続人の本籍地
2.被相続人の最後の住所地
3.申出人(相続人、相続人の相続人)の住所地
4.被相続人の名義の不動産の所在地
提出先は選べる!
上記をご説明すると、被相続人の本籍地に提出する方が多いのですが、冒頭の設問のように人口が多い都市を管轄する法務局は事務が集中し、法定相続情報ができあがるまでに時間がかかることがあります。
どこに提出してもOKですので、言い方が適切ではありませんが、事務が集中していないと思われる法務局に提出した方がよいかもしれません※。
※筆者も町田市に在住で、厚木市に賃貸アパートを所有している被相続人の法定相続情報一覧図などを町田市を管轄する法務局に提出しようとしたところ、非常に事務が集中して2~3週間手がつけられないので、厚木市を管轄する法務局に提出した方が早く終わるのではないかと勧められたことがあります(あくまで事務の集中という意味にすぎないとは思いますが)。
必要書類など
必要書類など細かい手続きは下記の法務局の案内をご参照ください。
©新富税理士・不動産鑑定士事務所
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