■今回は境界確定図、測量図、地上建物の設計図書について
第5回でご案内したように、全ての土地について詳細な状況を示してくれる公図や地積測量図が法務局に備え付けられているわけではありません。
ここであきらめて、あのざっくりとした公図で相続税評価をしてしまっていいのでしょうか?
答えは、「NO」です。
まだ、使える図面があります。
その例が
8.境界確定図
9.測量図
10.地上建物の設計図書
です。
結構、使える「優れモノ」です。
なお、各図面に対する簡単な理解はあくまで私なりの理解ですので、厳密な解釈は各方面の専門家の書籍等を参照してください。
■境界確定図、測量図
境界確定図とは、その名のとおり評価対象となる土地とこれに隣接する土地との境界、筆界について評価対象となる土地の所有者と隣接する土地の所有者とで合意し、その位置を明らかにした図面です。
この図面は、その境界、筆界に基づいて評価対象となる土地を測量した図面とセットになっていることが多く、これを「確定測量図」とよんだりします。
法務局に新しい地積測量図があれば、ほぼこれと一致するといえるのですが、これがなかなかのぞめないのが現在の登記事情でもあります。ですからお手もとにこれがあるのであれば、これで土地評価をすべきです(※下記「落とし穴」参照)。
この図面が出てくるケースを例としてあげると
①売却を検討している最中に相続が起きたケース
②相続税納付のために相続した土地の売却を進めているケース
③市役所の地積調査が行われ境界立会は済んでいるもののその成果の登記が法務局にまだ嘱託されていないケース
があげられます。
①の場合はおそらく遺産整理の最中にでてくることが多いと思われます。
しかし、②及び③の場合は、相続が開始した時、調査している時には図面がなくても、売買成立後や忘れたころに地積更正登記がなされ、この登記の情報が税務署に流れているのでとてもやっかいです。
実際の地積がいままでの登記地積よりも大きい場合には税務署から「正しい地積で評価をやり直して追加の税金を納めてください。」と修正申告のお話をいただくことにもなりかねませんので、十分に注意してください。
具体的には、確定前の段階の図面でもそちらのほうが現場の状況をよくあらわしているのであれば、これを使って評価した方が無難かもしれません。
測量図も確定測量図と同じく、評価の対象となる土地を測量したものです。
しかし、境界確定図の作製にともなって作られたものでなければ、隣接する土地との境界、筆界ついて明らかにしたものではありません。
つまり、境界、筆界は明らかではないけれども「だいたいこのあたりだろう。」といところで測量した図面になると考えたらよいかと思います。
確定測量図に比べれば精度は劣りますが、土地家屋調査士や測量士といったプロが現地確認のうえ作製していることが多く、素人ががんばって概測するより正確なものですので、お手もとにこれがあるのであれば、使うことを検討すべき図面となります(下記「落とし穴」参照)。
■境界確定図、測量図の落とし穴
境界確定図、測量図はプロが作成しているものです。
ですから、地図に準ずる図面で代用されている公図(二刀流ブログ第5回参照)と比較すると当然精度が高いわけですが、あくまでその図面が作製された時代の技術水準で精度が高いということになります。
測量も「技術」ですから、時の経過とともにその水準は高まっています。
その図面の作成時期が古ければ、現在の技術水準からみれば精度は劣るということもありますし、あまりに古い場合はわたしのような「しろうと」がみても現場と違うのでは思われるものもなくはありません。
また、精度が高いといってもあくまでその図面が作製されたときの状況をあらわしているものですので、相続開始時点では状況が大きく変わっていることもあります。
ですから、これらの図面があるからといって安心するのではなく、面倒でも現場で図面との「突合=つけあわせ」を行うことが必要です。
■地上建物の設計図書
地上建物の設計図書とは、評価の対象となる土地の上にある建物の設計図書のことです。
設計図書の記載事項はだいたい
①土地の状況
②建物の土地の中での配置図
③建物に使われている資材の仕様
④建物の間取り図
⑤建物の立面図
⑥建物の構造図
⑦建物の設備図
などですが、
そこに建物の敷地=評価の対象となる土地の測量図が①か②のあたりに記載されています。
財産評価基本通達が土地は土地で評価、建物は建物で評価と規定していることもあるせいか、
・公図や地積測量図など土地に直接関連する資料についてだけ紹介している土地の相続税評価の解説本
・土地の評価といわれると土地の資料ばかり見てしまう税理士
が多いのも残念ながら事実です。
ですが、不動産実務では土地のうえに建物があれば、土地建物一体として確認、分析して値付け(評価)していくのがあたりまえのことですし、不動産鑑定評価でもそのように評価作業を進めていきます。
また、設計図書には、後に詳しくご説明する
・道路の建築基準法の種別
・道路後退(セットバック)部分の位置
・用途地域境(ざかい)
・都市計画道路の位置
・貸家建付地の評価の賃貸割合の査定で必要な間取り図
など参考になる情報が「ぎゅうっと」詰まっています。
ですから、不動産実務にある程度携わっていれば建物についての資料も当然「確認させて下さい」となるのですが、慣れていないとこれがぬけおちてせっかく有用な資料があるのに不正確な「地図に準ずる図面」で評価して、「どう見てもかげ地があるのにかげ地割合がマイナス。。。」なんてことになりかねません。
こちらも境界確定図と比べると、境界、筆界をあきらかにしたうえで作製されているわけではありませんので、精度は落ちます。
しかし、建築士や測量士といったプロが作製していることが多く有用ですので、お手もとにこれがあるのであれば、やはり使うことを検討すべき図面となります。
■地上建物の設計図書の落とし穴
こちらも境界確定図、測量図と同じく、技術進歩の限界があることに十分留意すべきです。
安心せずに現場で図面との「突合=つけあわせ」は行うべきです。
また、実務上これが一番難しいと思うのですが、大きい建物の敷地となると図面のサイズが一般的な用紙サイズであるA3を超えてしまい、いざかげ地補正をしようと思っても、手作業の場合、印刷屋さんに行って印刷してもらったり(結構費用がかかる)、A3で部分的にコピーして貼り合わせて、さらにこの巨大な図面に定規で測ったりする作業が必要になります。
A3用紙2枚なら貼り合わせも測るのもさほど苦にならないのですが、これを超えるとかなりしんどいです。
私の場合、一旦部分的にスキャンしてから、文書編集ソフトを使ってパソコン上で貼り合わせてかげ地補正作業用の図面を作製し、パソコンで測っていますが、わずかではありますがズレてしまうことは否めません(ズレがひどい場合は、ページ全部を印刷屋さんなどでスキャンしてもらうようにしています)。
■まとめ
1.被相続人が売却を検討している最中に相続がはじまったときは境界確定図や測量図がある可能性があるので探しましょう。
2.相続税納付のために相続した土地の売却を進めているときは、あとで確定測量がなされ登記地積が大きくなることがあるので、十分注意しましょう。
具体的にはまだ確定していなくても、現況に近い図面で評価した方が無難かもしれません。
3.市役所の地積調査が行われ境界立会は済んでいるもののその成果の登記が法務局にまだ嘱託されていないときもあとから登記地積が大きくなることがあるので十分注意しましょう。
具体的には地積更正登記がなされていなくても、現況に近い図面で評価した方が無難かもしれません。
4.土地のうえにある建物の設計図書にも土地の測量図があります。参考にしましょう。
5.土地のうえにある建物の設計図書には土地の測量図いがいにも土地の評価に役立つ情報が「ぎゅうっと」詰まっています。
「土地は土地、建物は建物」といわず、確認しましょう。
6.いずれの図面も時の経過により精度が落ちてしまうことがありますので、現地での「突合=つけあわせ」は行いましょう。
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