■図面は相続税評価の必須アイテム!
前々回及び前回は、評価する土地などの文字情報である固定資産税課税明細書や登記事項についてご説明しました。
これらはいわば、その土地などについての「文字情報」です。
一方、財産評価基本通達による土地の路線価評価では、奥行価格補正(※1)、不整形地補正(※2)、間口狭小補正(※3)、奥行長大補正(※4)は必ず行いますが、上記の文字情報だけで確認することは可能でしょうか。
自分で図面を一から作製できる測量の専門家を除けば、答えは「NO」です。
これだけではその土地の形状(かたち)、接面する道路との位置関係、建物と敷地の位置関係など評価に必要な具体的な要素はどんなにがんばってもわかりません。そのため事前に公図などの図面を準備し、現地と照合することにより評価に必要な要素を入手していきます。
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二刀流ブログ第3回 「固定資産税評価明細書は不動産評価のトップバッター」
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■図面の種類
不動産の相続税評価にあたり準備しておきたい図面は以下のとおりです(番号は二刀流ブログ第3回の付番と同一です)。
3.公図
4.地積測量図
5.建物図面・各階平面図
6.住宅地図
7.地形図
8.境界確定図
9.測量図
10.地上建物の設計図書
11.地上建物の確認済証
12.地上建物の検査済証
■図面の簡単な理解と説明
これから数回に分けて、各図面について私なりの簡単な理解と、基本的な使い方及び利用にあたっての落とし穴について説明していきます。
各図面の厳密な定義などについては各分野の専門家の書籍などでご確認ください(※5)。
今回は登記情報と同じくその不動産が所在する市区町村を管轄する法務局や登記情報提供サービスで取得できる
3.公図
4.地積測量図
5.建物図面・各階平面図
について説明していきます。
■公図とは
公図とは土地の区画を明確にし、地番を記載した図面で、その不動産が所在する市区町村を管轄する法務局に備え付けられています。
九州の法務局では「字図(あざず)」と呼んだりします。
取得の方法は、登記事項と同じくその不動産が所在する市区町村を管轄する法務局の窓口又は登記情報提供サービスで取得します(いずれも有償)。
■公図の使い方
取得した公図は、評価する土地の位置、形状などを確認するために使います。
精度などにもよりますが、ここから得れられる間口、奥行、かげ地割合などを使って土地の路線価評価を行うことができます。
■公図の落とし穴
公図を利用するにあたって注意したいのは、精度の高い公図と精度の低い公図があるということです。
実は公図には、
(1)不動産登記法第14条に規定する地図(以下、「14条地図」といいます。)と、
(2)不動産登記法第14条に規定する地図に準ずる図面(以下、「準ずる図面」といいます。)
の2種類があります(※6)。
実際に法務局や登記情報提供サービスで公図の取得を申請をすると、14条地図がある場合には14条地図が法務局の窓口でわたされ(登記情報提供サービスではPDFで出力され)、そうでない場合には準ずる図面が法務局の窓口でわたされ(登記情報提供サービスではPDFで出力され)ます。
14条地図は、厳密な測量などに基づいて作成された地図ですが、法務局が独自の権限で作成したものよりも国土調査の地籍図などを代用して14条地図としているケースが多いようです。
14条地図は本来全ての土地について備え付けられているべきものなのですが、作製が追い付かず、およそ半分については14条地図が備え付けられていないというのが実情です。
では、14条地図がないおよそ半分はどうしているのかというと、明治時代の地租改正時に徴税のために作成された地図(旧土地台帳附属地図)や土地区画整理事業で作成された図面(なかには14条地図並みに精度が高いものもある)などを14条地図に「準ずる図面」として、14地図が作成されるまでの間とりあえず備え付けられているにすぎないのです。
ですから、14条地図であれば相当の精度がある図面と考えられますが、準ずる図面であればそれほどの精度は望めないので、そこから得られる間口、奥行、かげ地割合を鵜呑みにして路線価評価しても本来の評価額とは大幅なズレが出てくる可能性が比較的多くならざるを得ません。
従って、他の精度の高い図面(※7)があったらそちらを積極的に使うようにしましょう。
つまり、公図だけで相続税評価をしてはいけない土地がたくさんあるということです(※8)。
以下に14条地図のイメージと準ずる図面のイメージを示しましたので参考にしてくだい。
〇14条地図のイメージ
出典:盛岡地方法務局ホームページ(houmukyoku.moj.go.jp/morioka/static/33zumen.html)に加筆
〇準ずる図面のイメージ(とりあえずの図面)
準ずる図面の場合、末尾が以下のようになっています(異なる場合もありますので注意してください)。
■地積測量図とは
地積測量図とは、一筆の土地を測量した結果を明らかにする図面で、その不動産が所在する市町村を管轄する法務局に備え付けられています。
法令上は、土地の表題登記、分筆の登記等を申請する場合には添付しなければならない図面となっており、公衆の縦覧に供されています。
私は、よく、「地測図(ちそくず)」と略して呼んだりしています。
取得の方法は、登記事項と同じくその不動産が所在する市町村を管轄する法務局の窓口又は登記情報提供サービスで取得します(いずれも有償)。
■地積測量図の使い方
取得した地積測量図は、公図と同様に評価する土地の位置、形状などを確認するために使います。
具体的には、現地や他の資料と照合しながら土地の位置、形状などを確認するために使うほか、精度が確保されているのであれば、ここから得られる間口、奥行、かげ地割合などを使ってその土地の路線価評価を行った方が精度の低い公図を使って評価するよりも確度の高いものとなります。
■地積測量図の落とし穴
上記のとおり、法令上は、土地の表題登記、分筆の登記等を申請する場合には添付しなければならない図面となっていますので、素人目(しろうとめ)には全ての土地について地積測量図が備え付けてあってもよさそうなのですが、これも14条地図と同じく地積測量図が備え付けれている土地とそうでない土地があり、実際は備え付けられていない土地が相当あります。
また、地積測量図が備え付けられていても、その作成した時期が古いものなど(※9)は精度が劣っている場合がありますので、あるからと言って安心するのではなく、現地や他の資料との照合を通じて「実際のところはどうなのか」を把握するよう絶えず注意する必要はあります。
さらに分筆した土地の場合、地積測量図取得を申請すると、分筆で新しくできた土地(ここでは「分筆先の土地」といいます。)と残った土地(「残地(ざんち)」といいます。)両方の地番が記載されている地積測量図を取得できますが、ここにも落とし穴があります。
(1)現在は、分筆する時には分筆先の土地と残地の両方の土地についてきちんと測量することになっており、その結果を記載した地積測量図が備え付けられることになっています。
ところが、
(2)昔は分筆先の土地だけをきちんと測量して、残地については測量せず、分筆前の地積から分筆先の土地の地積を差し引いてOKということが行われていたため残地の地積は不正確ということがよくあります(※分筆を繰り返している土地はその歪みが重畳的に蓄積される)ので、注意が必要です。
以下に地積測量図のイメージのうち(1)の地積測量図のイメージ、(2)の地積測量図のイメージを示しましたので参考にしてください。
〇(1)分筆先と残地がきちんと測量されている地積測量図
出典:盛岡地方法務局ホームページ(houmukyoku.moj.go.jp/morioka/static/33zumen.html)に加筆
〇残地は測量されていない地積測量図のイメージ
■建物図面・各階平面図とは
建物図面・各階平面図とは本来別々の図面ですが、一つのセットになっています。
建物図面とは、その建物の敷地並びにその1階(区分建物(例えばマンション)の場合には、その地上の最低階)の位置及び形状などを明らかにした図面(不動産登記規則第82条第1項)で、各階平面図とはその建物について各階の平面の形状、1階の位置、各階ごとの建物の周囲の長さ、床面積及びその求積方法などを明らかにした図面(同規則第83条第1項)です。
建物図面・各階平面図はその建物が所在する市区町村を管轄する法務局に備え付けられています。
私は、よく「建図(たてず)」と略して呼んだりしています。
取得の方法は、登記事項と同じくその不動産が所在する市町村を管轄する法務局の窓口又は登記情報提供サービスで取得します(いずれも有償)。
■建物図面・各階平面図の使い方
取得した建物図面・各階平面図は
(1)建物の敷地となっている地番の確認
(2)建物が敷地のどの位置に建っているのかの確認
(3)建物の各階の形状の確認
(4)増改築(の可能性)の確認
(5)精度が低い公図がない場合における土地の位置、規模、形状などの確認
のために使います。
このうち、実務上重宝するのが、(1)、(4)、(5)です。
(1)により、被相続人所有の土地だけに建っていると思っていた建物が実は他人の所有する隣接地に建っていたことがわかり、本来相続財産として把握しなければならない借地権の存在が判明することがあります。
(4)は、建物図面・各階平面図記載の形状と現場の建物の形状を突合することにより、増築した部分や減築した部分がわかります。
(5)は14条地図がなく、地積測量図などの詳細な図面が見当たらない土地の場合に実際の土地の位置、規模、形状などに近い情報が得られることがあります(※10)。
■建物図面・各階平面図の落とし穴
建物図面・各階平面図は、建物を新築、増築などした場合には、その登記申請の際に添付しなければならない書類であり、全ての建物について備え付けられているはずなのですが、非常に古い建物については備え付けられていないことがあります。また、当然と言えば当然ですが、未登記建物は備え付けられていませんし、増築や減築をしても未登記の場合には反映されていません。
また、敷地の地番は建物図面・各階平面図を作製した当時の敷地の地番であり、そこに描かれている敷地の形状などはその当時の形状ですので、その後敷地が分筆されたりして地番や形状が変わっている場合には現在のものと一致しないということがありますので注意してください。
従って、そこに記載されている情報を鵜呑みするのではなく、現地と照合して「実際のところはどうなのか」を確認することが必要です。
以下に建物図面・各階平面図のイメージを示しましたので参考にしてください。
〇建物図面・各階平面図
■まとめ
1:公図、地積測量図、建物図面・各階平面図は、登記情報と同じくその不動産が所在する市区町村を管轄する法務局又は登記情報提供サービスで取得できます。
2:公図の中には精度の高い「14条地図」、精度の低い(可能性の高い)「準ずる図面」があります。精度が低いのであれば他の精度の高い図面を入手し、それらに基づいて評価をするようにつとめましょう。
3:地積測量図は原則その土地の状況をよく表している書類ですが、作成した時期が古いと精度が劣る場合があります。
4:分筆による残地については、これまでの測量の歪みが蓄積され、本当の地積と大きく異なっていることがあります。
5:建物図面・各階平面図は、建物の情報を記載した書類ですが、借地権の確認などにも役立つほか、土地について精度の低い公図よりもよっぽどマシな情報が記載されていることがあります。
6:精度の高い図面があるからと言って鵜呑みにせず、必ず現地と照合して「実際のところはどうなのか」を絶えず確認しましょう。
■参考
※1:奥行価格補正
土地は、接面する道路からの距離が短すぎても長すぎても使い勝手が悪くなります。そこで奥行が短すぎる土地、長すぎる土地については評価の減額を行う規定が財産評価基本通達に定められています。これを奥行価格補正といいます(財産評価基本通達15)。
※2:不整形地補正
土地は、正方形や長方形といった「四角くて食べやすい」整形地以外の場合、建物を建てようと思ってもその配置が制限されたり、思わぬ斜線制限などにより建物の高度利用が阻害されることがあります。そこでその土地が不整形地である場合で、整形地から大きく乖離しているときには、評価を減額する規定が財産評価基本通達に定められています。これを不整形地補正といいます(同通達20)。
世の中の土地において厳密な正方形又は長方形となっている土地はないと言っても過言ではありませんので、不整形地補正は全ての土地について必ず検討しなければならない事項であると言えます。
※3:間口狭小補正
土地は、接面する道路から円滑に出入りができなければ利用に支障がきたしますし、防災における避難の観点などから見ても、あまりにも間口が狭い土地は好ましくありません。そこで間口が短すぎる土地については評価の減額を行う規定が財産評価基本通達に定めらています。これを間口狭小補正といいます(同通達20-4)。
※4:奥行長大補正
土地は、間口の長さに比べて奥行の長さがあまりに長いと建物の配置が制限されたり、建物が建てられても日照が制限されたり(住宅地の場合)、宣伝効果が阻害されたり(商業地の場合)して使い勝手が悪くなります。そこで[奥行距離÷間口距離]が相当に大きい土地については評価の減額を行う規定が財産評価基本通達に定められています。これを奥行長大補正といいます(同通達20-4)。
※5:精度が低い図面の方が多い?
公図、地積測量図、建物図面・各階平面図については、法令によりその作製方法が細かく規定されていますが、この規定に準拠した図面の整備が間に合っていないというのが実情です。
ですから実務上は「現況と乖離しているのが当たり前」と思って対処していかざるを得ません。
ただ、このような状況が放置されているわけではなく、少しずつですが14条地図の整備は進められ、順次精度の高いものに静かに修正されていますので、調査にあたっては必ず、地図の整備状況などについて確認しておくべきです(別の回で説明します)。
※6:不動産登記法第14条では以下のように定められています。
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